隣のブルーバード
「スグ先輩、佐川先輩と、付き合うんだって……」
 そう言って、悲しげに肩を震わせる沙希を、どれだけ抱きしめてやりたかったか。

 そんな奴、忘れろ。
 おまえには俺がいる。
 どれだけそう言いたかったか。
 
 でも、わかりすぎるほどわかっていた。

 彼女にとって、俺はただの幼なじみだと。

 ただでさえ、振られて傷ついている沙希に想いをぶつけて、困らせたくなかった。

 長年、築いてきた信頼関係を壊したくなかった。
 それに、振られたくないという、変なプライドもあった。

 つまり、どうしようもなく臆病だったってこと。

 それでも、東京の大学に行く前日。
 一度だけ沙希の気持ちを確かめたことがあった。
 ――まだあいつが好きなのかって。
 
 沙希はちょっと困った顔をして、それから目を伏せて呟いた。
「うん、自分でも呆れちゃうけど」と。

 俺が一度も見たことのない、大人びた表情を浮かべて。

< 46 / 68 >

この作品をシェア

pagetop