隣のブルーバード
 ブーケのデザインはすぐ決まった。
 彼女はわたしのスケッチを見て、すぐにそのなかのひとつを選んだ。

「これがいいわ」
「自分でも、それが一番気に入ってました」

 そう答えると、杏子さんは顔を綻ばせた。

 その後、しばらく他愛のない話をして、じゃあ、そろそろと席を立ちかけたとき、彼女は神妙な面持ちになって「安井さん」と、あらためてわたしを呼んだ。

「はい」
「どうしても、あなたに話したいことがあったの……」

「はい?」

「あなたがブーケを作りたいと言ってくれたと聞いて、わたし、本当に嬉しかった。実は田所と出会ったばかりのころ、あなたに嫉妬していたの。田所に似合うのは、あなたのような人だと思って」

 意外な言葉だった。
「嫉妬? わたしにですか」

「ええ」

 その言葉を、もしあの当時に聞いていたら、ものすごく腹が立ったと思う。

 わたしが欲しくてたまらないものを、簡単に手に入れた人には、そんなこと口にしてほしくない、と。
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