隣のブルーバード
 でも今は……
 不思議なほど心は穏やかだった。

「わたしもすぐ気づきましたよ。スグ先輩、杏子さんが好きなんだって」

「それは……あなたが田所のこと、よく見ていたからよね」

 杏子さんはまっすぐにわたしを見て、それからおもむろに頭を下げた。

「ごめんなさい……って、謝るなんて偽善的すぎるとは思う。でもずっと心にひっかかっていて。どれほど、あなたを傷つけてしまったのかと……」

 こわばった表情を見せる彼女に、わたしは微笑みを返した。

「好きでした。それも9年も。でも、先輩が杏子さんに向ける眼差しに気づいたとたん、これはとても敵わないってすぐにわかりました。落ち込みましたよ、そのときは」


彼女の美しい顔がかすかに歪む。

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