隣のブルーバード
 わたしが感嘆の声を上げると、裕生は呆れた顔を向けた。

「沙希、おまえ、ほんとお人好しだな。好きな男を奪った女だろ。そいつ」

 好きな、というとき、ちょっと顔をしかめた。
 そんな反応が今はちょっと嬉しい。

「もう、『好きな男』じゃないよ。ふたりが並んでいるところを見ても、なんとも思わなかった。お似合いだなって思ったぐらい」

「へぇ……」
相変わらず、そっけないけれど、でも、ちょっと嬉しそうな顔をした。

「だって、わたしには他に、ちゃんといるから……」

 今だ。今しかない。
 そう思ったわたしはラッピングした包みをカバンから出して、裕生に差しだした。

「はい」

 昨日の晩、はじめて作った生トリュフだった。
 

「今はおふたりに感謝してるぐらい。わたしが本当に好きな人が誰か、気づかせてくれたから」

 裕生は言った。

「そっか、今日、バレンタインだっけ」
「うん」
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