隣のブルーバード
 前髪を眉毛の上で切り揃えた髪型で、白いポロシャツに紺色の吊り付きズボンをはいたその子は、アイスを口にしたまま、ぐっと首を回して、わたしを見た。

 黒めがちの眼が不安そうに揺れている。

「この子、おうちに帰んなくていいの?」

 もう、こんなに遅いのに。
 いいなあ。
 もっと遊びたいのを我慢して帰ってきたのに。

「一緒にごはんを食べるのよ」
「なんで? この子のママは?」

そう訊くと、お母さんは、わたしが幼稚園に行きたくないってぐずったときと同じような、ちょっと困った顔になった。

「あのね。とっても遠いところにいってしまったの。裕生くんのママ」
 
 ママの言葉に、裕生の瞳からポロリと涙がこぼれた。
 
 かすかに動いた唇。
 ママと言ったように聞こえた。
 
 あっ、泣かせちゃったかな。
 わたしが、ママなんて言ったから。
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