大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~



 今日は軽い感じの見合いなので、両親たちはホテルの別室で食事をして待っていた。

 双方の親と仲人に取り囲まれたのでは若い二人が緊張するだろう、という配慮からのようだった。

 いや、行正さんの上官夫妻がいるだけで、私は緊張するんですけどね、と咲子が思ったとき、
「では、お二人で庭でも歩いてらしたら?」
という定番の見合いの言葉を聞いた。

 外国人観光客などを狙って建てられた素敵なホテルだ。

 この庭を歩くのは悪くないけど。

 この蝋人形の人とか……。

 上官夫人が待っていた両親たちに上手く話がまとまったことを報告する。

 親たちは上官夫妻に笑顔で礼を言っていた。

 笑顔がないのは、夫婦となるはずの咲子たちだけだ。
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