大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
咲子がグランドピアノがあるサンルームに移動して雑誌を読み耽っていたそのころ。
咲子と年の近い女中、ユキ子は燭台の並ぶ長い廊下を歩きながら、鼻歌を歌っていた。
ハツに、
「この間、荻原様が持ってらした洋菓子を庭にご用意したから、咲子さまをお呼びして」
と言われたからだ。
ユキ子は愛らしい奥方様が薔薇の咲き乱れる庭園でお茶を飲む姿を見るのが好きだった。
給仕している自分まで美しい西洋の絵画の世界に入り込めたようで。
しかも、咲子はときに話し相手として、自分も一緒にお茶を飲むよう勧めてくれたりするのだ。
咲子は、今日は緑の地にオレンジなどの大きな花柄の着物を着ていた。
いつものように愛らしい。
……が、その愛らしい咲子は、何故か、日当たりのいいサンルームの隅にしゃがみ、真っ青な顔で雑誌を読んでいた。
「ど、どうされたんですか? 奥様」