大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
「な、なんでもありません」
と言いながら、咲子は雑誌を伏せて立ち上がったが。

 何故か、その雑誌をまた手に取り、ちゃんと閉じて置き直す。

「あの、とても良いお天気ですよ。
 お庭でお茶などいかがでしょう?」

 様子のおかしい咲子を心配しながらユキ子は訊いた。

 いや、良い天気なのは、サンルームにいる咲子には言う必要のないことだったのだが……。

 やはり、少し動揺していたのかもしれない。

 そのくらい今の咲子の顔色はどす黒い。

「ありがとう」

 そう言って咲子は庭に通じる扉に行きかけたが、何故か戻って、もう一度、その本を手に取る。

 蓄音機の後ろに隠していた。

「あのー、奥様?
 どうかされたんですか?」
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