大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 去り際、ルイスが自分の手を握り、にこやかに微笑んで言ってきた。

「あなたが咲子サンのご主人なのですか。

 咲子サンはとても可愛らしい生徒でした。
 とても、いいヒトです。

 マア、セイゼイ頑張ってください」

 ルイスがつたない日本語で、二人の前途を祝したことは、静女にはちゃんと伝わっていたので、静女は微笑ましく眺めていたのだが。

 疑心暗鬼な行正には、なにも伝わってはいなかった。

 行正は英語が堪能だったので、ルイスは自国の言葉で祝福すべきだった。

 ――精々頑張って……。

 必ずしも悪い意味ではないのだが。

 なにか今は嫌味にしか聞こえないな。

 行正はそんな風に思っていたが、もともと感情があまり顔に出ない男なので、行正の不満はルイスには伝わらず。

 店から出たルイスは窓から見える行正を振り返りながら言っていた。

「いやーっ。
 素敵な息子サンですねっ。

 咲子サンは幸せモノですっ。
 あんな素敵な旦那サマでーっ」



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