大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 


「お帰りなさいませ」
と女中たちと頭を下げる咲子に、うむ、と頷きながら、行正は思っていた。

 今日も俺の妻は可愛い。

 ……やはり、誰でもこいつを好きになるだろう。

 ならないとかない。

 そんな奴がいたら、殺す!
と本末転倒なことを思いながら、昼に上官から贈られた抹茶を握り締める。

「奥様と召し上がれ」
と上官夫人が(ことづ)けてくれたものらしい。

 だが、そのとき咲子は、

 ――なんでしょうあの抹茶。

 行正さんが急にそんなもの持って帰るなんて怪しい……、
と行正の手にある小さな木箱を見つめていた。
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