大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 二人きりの密室!

 いや、何処も密室ではないのだが。

 母家から離れた空間なので、なんとなく……。

 そのとき、茶釜の側に腰を下ろした行正が木の箱を手に持ち、ふと気づいたように言った。

「……入りの抹茶か」

 ――なに入りのっ!?

 実は行正は、
『金粉入りの抹茶か』
と言ったのだが。

 いろいろ考えすぎて、声まで沈んでいた行正の言葉は低すぎてよく聞きとれず、咲子の中では、

『毒入りの抹茶か』
になっていた。

 よく考えたら、自分で毒を用意したのなら、毒入りの抹茶か、はおかしいのだが。

 ――私のようなものが、こんな素敵な行正さんの妻だとかっ。

 行正さんにとっては、私は最初から邪魔者でしかなかったのではっ?
と思う咲子の中では、もう夫による毒殺決定だった。
< 129 / 256 >

この作品をシェア

pagetop