大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 顔を上げてこちらを見た行正の心の声が流れ込んでくる。

『……正式な茶事でもあるまいに、こいつ、なにを緊張してるんだ?』

 いやいやいやっ。
 おばさまがたに囲まれた茶事の方がマシですよっ。

 茶事で毒を盛られることは、あまりありませんからねっ、と咲子は膝の上で両の拳を握り締める。

 咲子の頭の中では、夫に毒殺された自分の話が婦人雑誌に載っていた。

『哀れ! 嫁いですぐに、夫に毒殺された新妻!』
という見出しのそれを美世子と文子が、

「まあ、怖いわねえ」
と眺めている――。


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