大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
青ざめて座る咲子の前で、茶筅通しの音がする。
茶筅通しはお茶を点てる前に、穂先を温めてやわらかくしたり、あらためたりするための動作だが。
流派によっては茶碗に軽く三回当てて、微かに音を立てる。
真言密教の灑水という浄めの儀式から来ているという話を聞いたが。
いや……なにも浄まらないっ。
今、まさに夫に殺されようとしているのに、なにも浄まらないし、静まらないっ!
咲子の鼓動は速く。
息が荒くならないよう、抑えるのに必死だった。
母家から離れた茶室は静かすぎ、ちょっとした息遣いまで行正に聞こえてしまいそうだった。