大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 やがて点てたお茶が目の前に置かれ、咲子は心臓がバクバクしながらも作法通りに口元まで持っていく。

 そこで、行正の顔を見た。

 ――何故、飲まないのだ、と行正さんの澄んだ目が私に告げている。

 今から妻を殺そうとしているのに、何故、あなたの目はそんなに澄んでいるのですか?

 単にお茶を点てるという動作のせいで、いつものお稽古のときのように無心になっただけだったのだが――。

 こんな綺麗な目で見つめられたら、もう飲むしかないっ!

 覚悟を決めた咲子は毒をあおるが(ごと)く、金粉入りの抹茶を飲んだ。


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