大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 


「行正さんは人がいいですね」

 豆腐屋のじいさんが、
「毎度ありがとうございます」
と素敵な笑顔で言って去っていったあと、二人は散歩に出ていた。

「お前は十丁買ったと聞いたが……」

 さっき、ユキ子がそう言っていたのだ。

「いや~、押しが強い行商の方なら断れるんですが。
 遠慮がちに人の良さそうな顔で言われるとちょっと……」
と咲子は苦笑いする。

「豆腐屋にとり憑かれるというから、どんな豆腐屋かと思ったぞ」

 謎の豆腐を配ってくる、あやかし 豆腐小僧とか。

 一度見たら離れられない色男の豆腐屋とか。

 ……そんな色男より、あやかしの方が無害だな、と思ったとき、横を歩いていた咲子が言った。

「あの……、実は私、行正さんにお話しないといけないことがあるんです」
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