大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 だがまあ、嘘はいかん。

 すぐにボロが出るしな。

 それにしても、せっかく楽しく散歩をしていてたのに、咲子の元気がなくなってしまった。

 どうにかしてやらねば。

 なにをしたら、機嫌がよくなるだろうか。

 咲子が観たがっていたオペラのチケットでも手に入れるか。

 いや、そんなの待てないな。

 今すぐ、こいつに笑ってもらいたい。

 打ちひしがれた様子の咲子を見ているだけで、こっちまで、胸がきゅーっとなってくるから。

 一体、どうしたらっ、と行正が苦悩したそのとき、向こうから、白いもふもふの犬を連れた男がやってきた。

「行正さんっ、めちゃくちゃ可愛い犬がっ」
と咲子は浮かれる。

 ……今、この世の終わりみたいな顔してたのに。

 なんて切り替えの早いやつだ。

 呆れたのと安堵したのとで、行正は自然に微笑んでいた。

 こちらを見ていた咲子が、えっ? と驚いた顔をしたあとで、何故かちょっぴり赤くなる。




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