大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
『咲子、お前と結婚できてよかった。

 ……いや、でも、ほんとうにこの心が読まれていたら恥ずかしいな。

 だが、この気持ちを口に出して言うのは自分には難しいから、いっそ、読まれた方が……。

 いやいや、だがしかし……』
と行正は長々考えていたが、咲子は短く、

『今すぐお前を(はら)ませて、とっとと捨ててやる!』
とだけ読み取った。

 咲子がこう読み取ってしまうのは、単に、自分と行正さんとでは釣り合わないっ、と思っているからだったのだが。

 咲子は、

 最初と同じことを考えていらっしゃいますっ。

 しばらく一緒に暮らして、わずかながらでも、心の交流があった気がするのにっ、と怯えていた。

 目を開けて、行正が問う。

「よし、では、今、読み取ったことを口に出して言ってみろ」

「そ、そんなこと恥ずかしくて言えませんっ」

「……お前の中の俺は、今、一体、どんなことを考えてるんだ?」
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