大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
「行正さんは、さっさと子どもを作って、私をポイ捨てしたいんですよ。
 おかげで、毎晩(もてあそ)ばれて……」

「なにそれ、惚気(のろけ)っ!?」
と美世子が立ち上がるので、咲子も立ち上がる。

「そうじゃないですよっ。
 行正さんは、ほんとに三条家の跡継ぎを早く作って、私から自由になりたいだけなんですよっ。

 毎晩、そう言ってますもんっ」

 まあっ、お可哀想にっ、と美世子以外の純粋な友人たちが青ざめて震える。

 いや、美世子が純粋でない、と言っているわけではないのだが……。

「行正さまが?
 そう言ってるの?」

 ちょっと不審げに美世子はそう言った。

「行正さまって、確かに女性にお優しくはないけど。
 わざわざベラベラそんなことしゃべって怯えさせたりするような方ではない気がするんだけど」

 いえですから、そこのところは、私が聞いてしまった、心の声なのですけどね。

 まあ、確かに、口では余計なことは言わない人ですよね。

 心の中では言ってますけど。

 ……それにしても、外でも女性には優しくないのですね。

 そう聞いて、咲子はちょっとホッとしていた。

 あまり女性に人気の夫も困る、と思っていたからだ。
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