大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
「そうなのですか。
 行正さまって、遠くからしか拝見したことないのですけれど。

 お優しくはない方なのですね」

「女性に気を使われない方は、今の時代、ちょっと……」
と友人たちの間で、行正の評判が(いちじる)しく下がってしまった。

 それも申し訳ない気がしてきて、慌てて、咲子はとり(つくろ)う。

「で、でもあの、車に乗り降りするときなどには、いつも、さっと手を貸してくださるんですよ」

 そこに、やはり行正を悪く言われたくない美世子が加勢する。

「それに、なんといっても、美しいあのお姿。
 お側に並んで立つのが嫌になるくらい神々しいですわっ」

 だが、
「さっと手を貸すのは当然ですわ」

「側に並んで立つのが嫌なくらい美しい殿方も困り物ですわね。
 咲子さまなら、問題ないでしょうけれど」
と言われてしまう。

 一度、悪くなった印象、良くするの難しいっ、と咲子は更に言い(つの)った。
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