大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 わざわざ義理の娘のために、そこまでしたということを人に見せるのをこの義母は嫌がる。

 咲子は思っていた。

 その高飛車な態度と切って捨てるような口調と美貌から誤解されがちだが。

 お義母さまは実は心根の優しい人なのだ。

 でも、何故かそれを人に見せることが自分の弱みになる、と思っていらっしゃる――。

 だから、咲子もこの着物については知らないフリをしていた。

 ただ、この着物を出してきた弥生子に、
「……ありがとうございます、お義母さま」
と感謝を込めて、深々頭を下げてしまったので、勘づかれているかもしれないが。

 弥生子は、
「適当に選んだだけだから、礼を言われるほどのことではないわ」
と咲子とは視線を合わせず、ふい、と顔をそらしてしまった。

「ああ、あなたがお嫁に行くと、せいせいするわ。
 この家、広く使えるし」

 お義母さまが私と妹の真衣子(まいこ)が順番を争わず、練習できるよう、舶来物のグランドピアノを取り寄せて、それぞれに、それ用の部屋を与えたり。

 それぞれに衣裳部屋を与えたり、舞踊用の部屋を与えたりするからですよ……。
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