大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 行正は冷ややかに自分を見ている。

 うう。
 着物の中にすぽっと潜って隠れてしまいたい。

 咲子の頭の中で、向かい合って座っている自分の首がなくなり、カッチリと着込んでいる立派な着物だけが正座していて、ぎゃっと行正が叫んでいた。

 ……ぎゃっ、とか言わないか、この人。

 立派な帝国軍人様だもんな。

 沈黙が続いているところに、厳しい顔をした彼の上官が戻ってきた。

「行正くん、どうだね?」

 行正は顔を上げ、上官を見ると、
「はい。
 このお嬢さんで結構です。

 よろしくお願い致します」
と言った。

 なにをよろしく⁉︎
と思ってしまったが。

 結婚を承諾されたようだった。

 だが、美しい彼の顔を見ると、ハッキリと。

 ここで断ると、のちのち出世に響くからな、と書かれていた。

 もはや、心の声を読むまでもない。
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