妖怪ホテルと加齢臭問題・その後の小話・オトナの現実と何とかの糸
「あと、天音ちゃんが、黒い着物を着た時、本当に驚いた。
あの人は、セレモニーや大切な
お客が来た時は、
黒い着物をいつも着ていたから。

まるで、母親が、立っているかのように、一瞬・・・
思えてしまったからね」

久遠の母親は、黒留めそでを着ていたのか。
既婚女性の正装だから。

「本当に、俺は
何もしてあげられなかった。
もっと、もっと・・ちゃんと」
久遠は、顔を手で覆って、
嗚咽した。

後悔の念、深い傷跡・・・
母親への思慕。
まだ、傷が癒えていないのだろう。

天音は少し、躊躇したが、
久遠の肩に、手をまわした。

すると、久遠は、体を折り曲げるようにして、
天音の膝に、顔をつけるような姿勢になった。

天音はゆっくりと、その背中を
さすってやった。

何を・・・言ってあげればいいのだろう。
大型わんこは、
子犬のように、体を震わせて泣いている。
まだ、母親への想いが、整理できなくて・・

正面の建物の窓、
カーテン越しに、人の影が動いている。食事の時間だ。

天音は、久遠の背中に顔をつけて、ささやいた。
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