恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
ただでさえ彼に面倒をかけている。
「迷惑じゃない。絶対にあんな危険な場所に帰さない」
「でも、私の家はあそこしかない」
「帰って同じことを繰り返して、また歩くんを危険な目に遭わせるつもりか?」
 耳に痛い言葉だった。咄嗟にギュッと唇を噛んだ。
「だって……新しい部屋借りる余裕なんて今の私にはない」
 都内なら一カ月十万前後するし、引っ越し代や敷金、礼金もかかる。
 五十万近く飛んでいけば、貯金が一気に減って生活が不安になる。
「だから、うちにいればいい。部屋は余ってるし、うちならあの男も来ない」
 確かにそうかもしれないけれど、親族でもない彼の家に歩と一緒にお世話になるなんて無理だ。
「そんな迷惑かけられないよ」
「美鈴はひとりでなんでも背負い過ぎだ。俺を頼れよ」
 彼の言葉を聞いて涙が込み上げてきた。
 そんな優しいことを言われたら甘えたくなる。
 でも、ここで甘えてしまったら、もう二度とひとりでやっていく気力がなくなってしまうに違いない。

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