恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
踵を返して浴室へ戻る彼女の後ろ姿を見ながら小さく笑う。
 彼女の反応が初々しくてとても愛おしく思える。
 再び戻って来る時はどんな表情を見せるのか。
 想像するだけで楽しい。
 歩のかわいい寝顔を眺めていたら、髪を乾かした美鈴が戻ってきて伏し目がちに声をかけてきた。
「い、一条くん、浴衣着てきて」
「また名字で呼んでる。まだまだ練習が必要だな。今後は一緒にお風呂に入ることにしようか? また溺れられても困る」
 笑って美鈴をからかうと、彼女が恥ずかしいのかギュッと目を閉じて声を上げる。
「一条く……んん!」
 美鈴の口を塞いで黙らせると、彼女の耳元で囁いた。
「だから絢斗だよ。あんまり興奮するとまた歩が起きるよ」
 彼女を注意して寝室を出ると、身体が冷えたのでまた部屋の露天風呂に入る。
 ついさっきまで美鈴と触れ合っていたのが嘘みたいに静かだった。
 波の音が聞こえる。
 心も穏やかで、自分でもリラックスしているのがわかる。
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