恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
優しい声で尋ねる彼にしゃくりあげながら答える。
「だって……絢斗が……泣かないから」
「美鈴……」
 彼が私の右と左の瞼にそっとキスをする。
 だが、それでも涙は止まらない。
「美鈴って泣き虫だね」
 少し困ったような顔で小さく笑う彼。
「あ、泣き虫なんかじゃない。これは絢斗の涙です」
 強がってそんなことを言う私の頬を両手で挟んでゆっくりと口付ける。
 まるで私に『泣くな』って言ってるみたい。
 その優しいキスに胸が詰まった。
 どうしたら彼の悲しみが減るのだろう。
 私には彼の代わりに泣いてあげることしかできない。
 触れ合うようにキスをしていた彼がなにかスイッチが入ったかのように私の頭を掴んでキスを深めていく。
「ん……んん」
 私も絢斗の胸に手を当てて彼の口づけに応えた。
 激しいと思いつつも、彼を求めずにはいられない。
 だが、彼が突然私の両腕を掴んで身体を離した。
「これ以上続けると止められなくなる」
「……止めなくていい」
< 161 / 256 >

この作品をシェア

pagetop