恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 歩と一緒に物珍しそうに豪華なホテルの内装を眺めながらエレベーターを待っていたら、「一条くん?」と誰か女性の声がした。
 声の主を見たら峯岸さんで、彼女はちょうどエレベーターから降りてきたところだった。
 ブラウンのドレスに高いピンヒール。髪もアップに纏めていてとてもエレガント。
 なにかパーティーがあったのか、一緒に降りてきた人たちも華やかな格好をしていて、彼女は横にいた外国人男性に先に行くよう英語で伝え、にこやかな顔で絢斗に目をやるが、私と歩に気づいてほんの一瞬だが表情を固くした。
「あなたは芹沢さ……ん? え? 一条くんと芹沢さんって結婚して子供もいたの?」
「いえ、違うんです。この子は私の弟です。それに結婚もしてないです」
 苦笑いしながら訂正するが、絢斗はフッと微笑して付け加える。
「結婚はしてないけど、もう家族みたいなものだよ。じゃあ」
 絢斗に背中を押されてエレベーターに乗ると、扉が閉まるまで峯岸さんは私たち三人を見ていた。
 
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