恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 しかし、目の前にいる彼女は怨念を込めるようなキツイ目で私を睨みつけている。
 こ、怖いんですけど……。
 思わず怯む私を安心させるかのように彼がさらに強く私の手を握ってきた。
「彼女は私の恋人です。宝生さんには申し訳ありませんが、あなたとは結婚できません。彼女……美鈴を愛しているので」
 一条くんは彼女に冷酷に告げると、私に目を向けフッと微笑する。
 その顔を見てゾクッと寒気がした。
 え? 今……美鈴って言った?
 私のことバレてる?
 狼狽えながら一条くんを見ていたら、彼の見合い相手が顔を真っ赤にして怒った。
「こ、こんな侮辱、信じられないわ! 帰らせてもらいます!」
 鼻息荒く彼女は部屋を出ていく。
 だが、これでホッとはできなかった。
 逃げなきゃ。一条くんに私のことを知られてしまった。
 レンタル彼女をやってるなんて軽蔑されるに決まってる。
「あの……役目が無事に終わったようなので、これで失礼します」
 なにか言われる前にここから去ろうとするも、彼は私の手をしっかり握ったまま離さない。
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