恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました

「これから料理が来る。今更キャンセルできないし、食べていこう。さあ、座って。残りの五十万円も渡したいし、芹沢美鈴さん」
　一条くんがスーツの内ポケットに手をやり、厚い茶色の紙封筒を私に見せるが、またポケットに戻した。
　ああ、そうだった。お金を受け取らないと。
　仕方なく席に着くが、目の前に彼が座り、圧迫感を覚えた。
　『綾乃』なんて嘘をついたこととか聞かれたらどうしよう。
　この状況、ある意味拷問に近い。
「九年振りにあったんだから、まずはシャンパンで乾杯しよう。適当に決めていいかな？」
　飲み物のリストを見ていた彼に聞かれ、力なく返事をした。
「……どうぞ」
　一条くんがスタッフを呼んで飲み物を頼むとすぐにシャンパンと生ハム、プチトマト、チーズ、エビ、ブロッコリーなどの色とりどりの食材で作った一口サイズの前菜が運ばれてきた。
　一条くんは目の前にシャンパングラスが置かれると、手に持って掲げた。
「九年振りの再会に」
　私もグラス手に取ったが、掲げずにそのまま口に運び一気に飲み干す。