恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 おろおろする私の手を絢斗がギュッと握ってきた。
「なにも心配することはない。俺たちには強い味方もいるしね」
 余裕の笑みを浮かべる彼の言葉に首を傾げた。
 強い味方って誰?
 聞きたいけれど、今は聞けない。
 なぜなら社長がこちらにやってくるから。
「彼女がお前の?」
 社長は私を見てすぐに絢斗に目を向けた。
「ええ。そうです。芹沢美鈴さんです。ここだと目立ちますから場所を移動しましょう」
 絢斗が私の手を引いてエレベーターホールに向かうと、社長と菊池さんが遅れてついてきた。
 社長に紹介されたらちゃんと挨拶しないととか考えていたけれど、もう頭の中がごちゃごちゃでどう振る舞っていいかわからない。
「原油外航部の芹沢美鈴です」
 とりあえず所属と名前は言ったが、他の言葉がなにも浮かんでこない。
「彼女は高校時代の俺の同級生なんだ」
 絢斗が私をそう紹介すると、エレベーターの扉が開いて私を含めた四人で乗る。
 もう生きた心地がしない。
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