恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 もう自棄だ。お酒を飲めば少しはこの緊張状態がマシになるかもしれない。
「お酒、強いの?」
「いえ」
 言葉少なく答えて、前菜を食べ始める。
 はっきり言ってお酒を飲むのはこれで二度目。入社後の歓迎会で飲んで以来だ。
 その時たくさんの人からビールを注がれ、記憶をなくすくらい飲んでしまったので、お酒はずっと控えていた。
 それに、歩の保護者になってからは飲み会にも参加していない。
「今まで元気にしてた?」
 にこやかに尋ねる彼にぶっきら棒に返した。
「それなりに」
「そう。どうして『綾乃』って名乗ったの?」
 私の素っ気ない態度を気にせず、一条くんは質問を続ける。
「本名は教えたくなかったんです」
「メガネ外してるから俺が気づかないって思った?」
 図星を刺されてギクッとした。
「そ、それは……」
「メガネかけてなくてもわかるよ」
「どうして……?」
「昔からなんていうか美鈴はビー玉みたいに曇りのない目をしてるから」
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