恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
「もう本当にやめてよね」
 ふたりをじっとりと見て注意すると、会社を後にした。
 マンションには帰らず、タクシーに乗って阿佐ヶ谷の保育園に向かう。
 先日電話があって歩の荷物を取りに来るように言われたのだ。
 絢斗は今夜は役員たちと飲み会があるらしい。
 保育園に着くと、保育士さんと最後の挨拶をした。
「歩くんが使っていた道具箱と園の子たちが書いた手紙です」
 笑顔で荷物を受け取り、礼を言う。
「ありがとうございます。今までお世話になりました」
 深々と頭を下げると、園を後にし、以前住んでいたアパートに歩いて向かった。
 結局母の元カレの鮫島の件があってから、アパートには行っていなかった。
 解約や引っ越しの手続きは絢斗がしてくれたから、もう私と歩が住んでいた部屋には新しい住人がいるかもしれない。
 それでも最後にひと目見ておこうと思った。
 アパートに着くと、自分が住んでいた部屋を見て懐かしく思った。
 誰が見ても粗末なアパートだけれど、それでも私にとっては思い出のある家。
 
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