恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
「よし。終わった」
 すぐにパソコンの電源を落としてデスクの下に置いていたバッグを取ると、咲がロッカーから私の深紅のコートを取って来てくれた。
 先月までは暖かかったのだが、十二月に入って急に寒くなった。しかも、今日は十二月初旬というのに雪が舞っている。
「はい、コート。急ぎなさい。歩くん、待ってるわよ」
 歩というのは私の五歳の弟。
 三年前に母が亡くなり、私がひとりで育てている。ちなみに私と歩には父親がいない。
「ありがと。じゃあ、あとお願い」
 彼女からコートを受け取って羽織り、小走りでオフィスを出てエレベーターホールに向かう。
 着いたエレベーターに乗ろうとしたら、隣のエレベーターから副社長が降りてきた。
 女性なら誰でも振り返るような美形。
去年イギリスの石油会社は買収したのは、彼の手腕によるものらしい。
 副社長の彼は外国人のゲストに囲まれ、談笑していて私には気づかない。
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