恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 しかし、そのことを知っても胸は痛まなかった。
 それだけ彼は遠い存在だということ。
 昔は机を並べて勉強していたけれど、彼はもう雲の上の人。
 ううん、元々違う世界の住人だったのよね。
 自嘲するように笑うとエレベーターに乗り、会社を出て電車に乗る。
 阿佐ヶ谷駅で降りたところでスマホが鳴って、弟の通う保育園からかと思って画面を見たら、叔父からの着信だった。
 すぐにスマホを操作して電話に出る。
「どうしたの、叔父さん?」
《美鈴、頼みがあるんだが》
「歩を迎えに行くところだから手短にお願いね」
 今、午後七時十五分。保育園は七時半までなので時間がない。
《明後日の日曜日レンカノ頼みたい》
 レンカノとはレンタル彼女のこと。
 叔父はレンタル彼女『スイート』を運営していて、その傍らで猫カフェも経営している。
レンタル彼女のキャストが猫カフェのスタッフもしていて、叔父は『うちのキャストは業界ナンバーワンの質』と豪語している。確かに休日に猫カフェを手伝っていてバイトの女の子たちに会うが、みんなかわいくて性格もよく、おまけに頭もいい。
< 4 / 256 >

この作品をシェア

pagetop