恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 メガネをかけていないが、俺が用意した服を着ていたし、写真も見ていたから彼女だとひと目でわかった。
『お待たせしてすみません。スイートから来ました……み、あっ、綾乃です。アヤトさんですよね? よろしくお願いします』
 スーツと文庫本を目印として伝えていた俺に近づいてきて挨拶する彼女。
 どこか緊張した面持ち。
 綾乃ね。それが彼女の源氏名か。
 この様子からすると俺のことに気づいている?
 それともこの仕事にあまり慣れていないのか?
『はじめまして。アヤトです。時間通りです。どうぞかけてください』
 腕時計を確認し、初対面の振りをして彼女に座るよう促す。
 美鈴が俺の向かい側に座ると、飲み物を頼んで依頼内容について彼女に説明した。
『話はオーナーから聞いていると思いますが、あなたには僕の恋人の振りをしてもらいます。見合いの場所はこのホテルにあるフレンチレストランです。恋人という設定上、あなたの肩や腰、それに手に触れることがあると思います』
 
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