恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
これが演技だとしたらたいしたものだ。
 果たしてどっちか。
『あの……手、もう大丈夫です』
 美鈴が弱々しい声で俺に言うが、彼女の手は離さず恋人繋ぎをしてもっと人に親密に見えるようにした。
『転ぶといけないから。それに、この方がより恋人アピールできる』
 笑みを浮かべて言う俺に彼女はもう嫌とは言わなかった。
 いや、言えなかったのかもしれない。
 彼女が俺に会った時よりもどこかナーバスになっている感じがした。
 もし、美鈴が高校時代と変わっていなければ、その様子にも納得できる。
 だが、まだこれが素なのか、演技なのか確信が持てない。
 見合いの場所であるホテルのフレンチレストランに彼女を伴って行くと、もう見合い相手の女性が来ていた。
 席に座ってスマホを見ている。
 宝生……なんて言ったかな?
 父に釣り書を渡されたが、見る気もおきずまだ封筒に入ったまま執務デスクの上に置いてある。
 相手はパーティーで何度か会っているのでお互い顔は知っている。しかし、正直言って生理的に受け付けないタイプ。
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