恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
歩は背は九十五センチ、体重は十四キロと五歳にしては小さいが、サラサラの黒髪で目がキリッとしていて、自分の弟なのだがまだ幼いのに顔が出来上がっていると思う。
 頭もいいし、大人の言うこともよく聞いて、わがままひとつ言わないいい子。しかし、私としては逆にそれが心配だ。全然子供らしくない。
 それはきっと母が三年前に交通事故で亡くなったせいだろう。
 母は自分勝手な人で子供に愛情を注がない、いわゆる毒親だった。
歩にもろくに食事をさせず、遊び歩いていた。弟が小さいのも幼児期の栄養失調が原因。
 私と歩は姉弟だけど、父親は違うし、誰が父親かも知らない。つまり、私も歩も私生児。
 男好きな母はお金があれば全部恋人に貢ぎ、子供は放置した。家に何日も帰ってこないことも珍しくなかった。私は高校から学校の寮に入り、会社に就職後もひとりで暮らしていたのだけれど、年の離れた弟が心配で実家に戻った。
 母が交通事故死したのも恋人と沖縄旅行中の出来事で、母は私になにも言わずに歩を預けたのだ。
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