恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
そんな母だったから、歩は人に甘えるということを知らない。
「今日は遅かったね。電車遅れた?」
 靴を履いて私の前に立つ弟をそっと抱きしめる。
「ううん。ちょっと会社を出るのが遅くなっちゃって。待たせてごめんね、歩」
「あ、謝らなくていいよ。美鈴忙しいし。ほら、行こう」
 最近、弟は私が抱きしめると照れるようになった。
 でも、彼がやめてと言わない限り、やめるつもりはない。なぜなら私も歩も母に抱きしめられたことがないから。
 ちゃんと態度で相手に好きだと伝えるのは大事だと思う。
 保育園の先生に一礼すると、近くのスーパーに行った。
「歩、今日はなにを食べたい?」
「ハンバーグ」
 弟が素っ気なく答えるけれど、その言葉を聞いてクスッと笑った。
「昨日もハンバーグだったよ、歩」
「だって美鈴のハンバーグ美味しい」
 淡々とした口調で返されたが、弟に褒められ顔がニヤける。
「了解。じゃあ、ハンバーグにしよう」
 ニコニコ顔で応じると、歩は私の手を強く握って言った。
「僕も手伝う」
 
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