恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 借用書なんて元々ないのだろう。
 俺についてきた拓真がようやく動いて男を掴み、目をギラギラと光らせて言った。
『そうか。警察でじっくり話を聞こうか?』
 基本、拓真は人を弄るのが好きなのだ。
 柄の悪いその男よりも悪人に見える。
 彼が警察に電話をし、美鈴と歩くんに声をかけるが、彼女は『うん』と返事をして目を閉じる。
 その顔は赤くて、彼女の額に手をやると熱があった。
『美鈴、死なないよね?』
 心配そうに尋ねる歩くんの頭を撫でてゆっくりと告げる。
『死なないよ。俺が保証する。拓真、俺は彼女とこの子を連れて帰るから、医者手配しておいて。あと、警察への説明頼む』
 ちょうどパトカーがやって来て拓真にそう命じると、美鈴と歩くんを連れて俺のマンションに帰る。
 美鈴は熱があったし、あのアパートにもういさせたくないと思った。
 麻布にある三十七階建てのタワーマンションの前に車が停車すると、歩くんに先に降りてもらい、美鈴を抱き上げて三十七階にある俺の部屋へ――。
 
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