恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 大きなベッドにひとりで寝る姿を見ていると、本人は大丈夫と言っているが、すぐに部屋を去ることはできなかった。
 俺が小さい時はどうやって寝てたっけ。
 父も母も毎晩いなくて、ベッドに本を持ち込んでひとりで寝ていたよう……な。
 普通は本を読み聞かせたりするのだろう。
 だが、子供が読む本なんてうちには一冊もない。
 ベッドの端に腰掛け、歩くんと話をした。
「モモはお姉さんがプレゼントしてくれたの?」
「うん。美鈴も小さい頃同じものを持ってたんだって」
 歩くんはギュッとぬいぐるみを抱きしめる。
「そう。カワイイね」
 ぬいぐるみもかわいいが、ぬいぐるみを抱いている歩くんもかわいかった。
 この姿を見ると、なんだか優しい気持ちになれる。
「お兄さんはなにかぬいぐるみ持ってた?」
「歩くんより大きなくまのぬいぐるみを持ってて、ベッドを占領してたよ」
「へえ、占領されるって……どんな……だろ……う」
 途切れ途切れに言って歩くんの目が閉じる。
 ……寝たか。
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