アイドルが彼氏になったら
「毎日本当に忙しいでしょう?」

 「はい、スケジュールは過密です」

 「ナミさんだって大会社の社長さん
  じゃないですか?
  毎日お忙しいでしょう?」

「皆さんに比べたら大したことないの
 ですが、この仕事が好きなので

 毎日遊んでいるみたいな
 不思議な感覚です。」

「ユジュンさんはどうですか?
 たくさん大きなお仕事やコンサートなど
 いつもお忙しいと思いますが
 楽しいですか?」

少し下を向いて考えている
何て言ったらいいか迷っている感じだ
質問を間違えたかもしれない…

 「楽しいという感覚は昔はあったのかも
  しれません。
  グループができる前自由に曲作りが
  出来ていた時、
  それで小さい世界で評価されていた
  時…」

 「今は世界が巨大になり、
  純粋な曲作りが
  出来ていないかもしれません。

  アイドルとしての行いもありますし、
  ショーレースで勝たなければという
  気負いもあります。」


 「でも少し成長に壁を感じてしまって
  スランプというか、
  まさにナミさんが言った楽しいという
  感覚が無くなってしまって…
  もがいているところなんです」

一つ一つ言葉を選びながらも
滑らかにつなぐ

 「僕らが次のステージに行くためにも
  僕自身の経験をもっと積んで、

  深みのある人間にならないといけない
  と思っています」


「28歳でトップに立ってもまだ成長を
 続けているなんて!」

「でももがいていればきっと
 見つけられると思う。
 今までも意識していないだけで
 そうやって
 階段を上がってきたんだと思うし、

 ユジュンさんの中にその経験が
 刷り込まれているはずですよ。」

人生の先輩風がふかないよう、
できるだけライトな言葉を選ぶ

 「そんな風に言ってもらえると勇気が
  出ます。」
 
いつの間にかお酒がウィスキーに
代わっていて、
それをぐっと飲み干して話を続ける

 「僕らは伝えたいことを歌に
  ストレートに乗せて、
  そこに共感してくれた人達と優しい
  世界を作りたい!それだけなんです」

身振り手振りで情熱的に話す

私はアイドルグループは
作られたものをただ表現するだけ
だと思っていた

リーダーも、形だけだと思っていた

実際にはこんな素敵な理想と
クリエイティビティを
備えた最強リーダーが率いる集団も
あるという事を知らなかった

こんなリーダーがいたらついていきたい

一生懸命話す彼を見ながら、
いち社長として嫉妬すら感じる

素晴らしいわ、応援していますと伝える

目を細め口を一直線にして笑う

またウイスキーを煽った
こっそりお水を注文する

今日はペースが早い気がする

 「そういえば、ナミさんにあった日は
  ここがポカポカしてすぐ眠れるん
  ですよ!」

「なにそれ可愛い!
 私、その事実だけで生きていけます」

照れている 
髪をガシガシかきあげ頭を振る 
椅子に座り直してこっちを見る
照れた時の可愛いルーティン

ふふふ

 「可愛いと言われなれてないので歯痒い
  です」

「そうですか?」
「私の中ではずっと可愛いキャラでしたけどね」

ちょっと左右に揺れてまた照れルーティン

先程から何かを言おうとしては、
言葉を飲むを繰り返している


 「僕のことは年下すぎて弟みたいに
 可愛いという意味ですか?」


突然真面目な顔になった
手に持ったグラスと私の顔を交互に見ている
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