アイドルが彼氏になったら

名刺のメールアドレスに送ったはずだが返事がない!

「おかしいな。届いてないのかな?
 電話してみるか?
 会社に?最初に出た人に何て
 言えばいい?」

 「仕事メールに埋もれてるな、
  社長でしょ?忙しいよ。
  いつもお前が優先されると思うな
  よ、アイドルさん!」

「そんな風に思ってないよ。
 ただ連絡を取りたいだけ。」

いつも相談に乗ってくれるマルは業界
とは関係ない学生時代からの友達だ

率直に正直に何でも言ってくれる彼が
いたから、
僕はこの業界でいくらチヤホヤされても
正気でいられたし、
真っ当な?生き方ができたと思ってる

狂ってしまう人は少なからずいる

売れない時代を経てヒットすると、
見える景色が激変して
入るお金も桁違いになる

周りの扱いが180度変わり、
気分はかなり良い

ここで勘違いしてしまうとダメな事を歴史から学んでいた


ただ、浮世と現実世界を行ったり来たりしていると

激しい落差から急に孤独を感じる

何万人という好意の渦に溺れていた
数時間から
急に一人になって

なかなか興奮が冷めず
耳の奥では歓声が鳴り止まない

部屋で一人 物音ひとつしない静寂

一人だったと気づいた瞬間押し寄せる孤独

それは底なしで、
ただ耐えるしかない辛い時間

熱狂は嘘だったのかもしれないとさえ感じる

ある人はギャンブルで、酒で、女遊びで、悪い金儲けで
熱狂を続かせようとする

頭に残る歓声、好意、視線
僕らは想像以上にそれらに依存している

ただそれは日常に求めてはいけないもの

現実世界で熱狂を追い求めても満たされる事はなく

ただ深い闇に落ちていくだけなのだ



 「電話してみたらいいじゃん?」

「会社の番号しかないんだよー」

 「裏に携帯書いてあるよ」

「え!!!!」

 「お前らしいな!
  そんなに気になるなら隅々まで
  見ろよー
  抜けてるなー本当に」

「でかしたぞー!
 本当にマルと友達でよかった!」

 「はいはい 感謝して」

「・・・もしもし?」

 「もしかしてもう電話してんの?」

「しー!」

「あ!ナミさんですか?
 ユジュンです。覚えてますか?」

「連絡が遅くなりました。」 
「あのー先日のお礼に食事をご馳走
 したいのですが、
 空いてる日はありますか?」

「…はい、僕の方はいつも空いて
 ないので無理矢理時間作ります」

「わかりました、スケジュール調整して
 また連絡します」

「あ!あとカトク教えてください!」

「ではまた連絡しますね。
 はい、お休みなさい。」

 「終わったか?連絡先聞いたのか?
  約束取り付けたのか?」

「万事OK !いやーよかったよ
 ナミさん全然怒ってなかったし、
 大人の女性って感じ!」

 「何歳くらいの人?可愛い?美人?」

「これだから凡人は嫌だねー
 下世話なことばっかり言って」

 「だってそこ重要だろ、どうなの?」

「マスクしてたから全部はわからない
 けど、出てるところは全て美しかった」

「多分僕より少し歳上だけど
 あの複雑な魅力は言葉では言い
 表せないな…」


 「じゃ歳上で顔はよくわかんない
  ってことね」

「おい、どんなまとめ方だよ!」

 「ま、よかったよかった。
  久しぶりにウキウキしたユジュン
  が見られて安心した」

 「全く違う世界の人と交わること
  は大切だよ、
  良い関係になるといいな」

「まるーーー 愛してるーー」 

頭を抱えてキスしてやる

 「や・め・ろ!」

帰ったら急いでマネージャーに連絡して、スケジュール空けてもらわないと

多分再来週はインタビュー、コンサート
のリハに練習と
盛りだくさんだったはず

怒られそうだな…

でもこれを逃したら一生後悔すると感じる

直感だ

あんな人には二度と会えない

そんな気がした
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