断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
4.ルナ
イーサン第二皇子との騒動があって、ジャックさまの婚約者様もお亡くなりになられたことから、社交界は大騒ぎだったらしい。
両親から引き続き、屋敷でゆっくりしていなさいと言われたので、勉強に護身術、ピアノに、美容。のんびりとしつつも、自分磨きをして、過ごしていた。
今日は、午前中にピアノの練習をした後、屋敷の庭園にあるガゼボで、お茶をすることにした。侍女のリラに紅茶を用意してもらい、茶菓子のスコーンにクロテッドクリームを付けて味わっていると、近くで動物の弱々しい鳴き声がしてきた。
どこから聞こえているんだろう? 立ち上がって、茂みを覗き込んでみる。すると、薄汚れて消耗している様子の黒猫ちゃんがそこにいた。
「ヴィクトリアお嬢様、引っ掻かれたりしたら大変です。私が対応します」
「いいえ。こんなに可愛らしいのに、攻撃してくるわけないわ。大丈夫、大丈夫よ」
か細い声で「んにゃー」と鳴いている黒猫ちゃんを抱きかかえると、予想通りどこか弱った様子だった。怪我はないようだけど、どうしたのかしら。
「リラ。悪いけれど、蒸しタオルと飲み水を持ってきてもらえる?」
「かしこまりました。直ぐにお持ちいたします」
小走りでリラが去っていく。黒猫ちゃんと目が合うと、どこか人間らしい驚いた顔をしていた。
「黒猫ちゃん、もう少しの辛抱だからね」
「にゃーん」
「ふふっ。頑張るのよ」
リラがびっくりするほど早く、持ってきてくれたので、まずはお水が入ったお皿を黒猫ちゃんの口元に運んだ。すると勢いよく顔を突っ込んで飲み始めた。