断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

5.「だいすきです」

 黒猫のルナと過ごすことで、ジャックさまのいない一ヶ月はあっという間に過ぎた。
 そしてようやっと、ジャックさまが帰ってきたと知らされた。いつ皇城にいけるかしらと、ウキウキしていた夜。バルコニーからコツンと音がする。

――もしかして……!

「ジャックさま!」
「ヴィー。逢いたかったよ。また綺麗になってる」

 バルコニーの扉を開けると、直ぐにジャックさまは、ぎゅうっと苦しいくらいに、抱きしめてくださった。
 暖かくて良い香りに包まれて、とっても安心する。その厚い胸板におでこをグリグリと擦り付けると、「そんなに僕を誘惑してどうするの?」と聞かれて、赤面する。

 ちょっと、変態っぽかったかしら。恥ずかしくて死んでしまいそうだわ……。

「無事、帰ってきてくださって嬉しいです。お帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま。ヴィー、婚約の用意が整ったよ」
「っうれしいです……!」

 結ばれるはずのなかった、ジャックさまと、本当に婚約出来るだなんて。なんだかやっと現実味が湧いてきて、歓喜に溢れる。
 色々と状況が変わって、お互いの元お相手が、悲惨な目にあっているから、心の底から喜んでいいのかわからない。隣国の王女様のご不幸に、胸が苦しくなるけれど。
 でも、今この幸せは、噛み締めてもいいわよね……? 感情がたかぶって、視界がぼやけた。瞬きをすると、涙の雫がこぼれる。それをジャックさまが拭ってくださる。お優しいジャックさまが、とても愛おしい。

「ジャックさま、ありがとうございます」
「うん。こちらこそ」

 公女として感情の管理は得意だったはずなのに。ジャックさまの前では、感情がぐちゃぐちゃになる。涙が全然止まってくれなくて、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
 こんなわたくしなのに、バルコニーで身体を寄せあってくださる。髪をとかしながら、頭にキスを落としてくださって、ジャックさまからの好意がわたくしの心に染み込んでくる。

< 16 / 53 >

この作品をシェア

pagetop