断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
顔合わせから数日がたつと、第二皇子は、本格的な軍人となるため辺境へと旅立った。大方結婚話から逃げおおせたのであろう。そのため私は、婚約者ではなく、第二皇子妃“候補”という肩書きとなる。
好きでもない方のための、妃教育は苦痛でしかなかったけど、それでも少しの楽しみが出来たのは幸運なことだった。
その楽しみとは――
妃教育が終わる頃。王宮庭園でお茶をする、かの方を、遠くからそっと覗くこと。
(わぁぁ、今日もお顔が完璧!!!!!)
かの方とは、第二皇子の兄であり、皇太子のジャック殿下である。
……一般的に覗きはいけないってわかっているわ! 勿論わかっていますとも!
でもだって、公女として努力してきたし、妃候補として勉強頑張っているのだもの。このくらいは見逃してくれたっていいじゃない。
ただ、私好みの、美しいジャック皇太子殿下のことを眺めているだけだもの!
ほらあの涼やかな目元とか、サラサラな髪の毛とか、笑顔の奥の何考えているか分からない闇が垣間見えるところも……! しかも中性的なお顔立ちなのに、肩幅が! 広くて! 頼りがいがあって素敵すぎます!
(あぁ、線が細いのに骨格はガッチリとしてて、格好良すぎる。まさに絵本に出てくる皇子様のようですわ! それにしても殿下に持たれているティーカップが羨ましい……!)
ジャック皇太子殿下を覗けること、それは、あの第二皇子に嫁ぐ、唯一のメリットだ。
決して恋をしてはいけない方。でも、目の保養くらいさせていただいてもいいと思う。だって、皇太子殿下の弟である第二皇子に酷い扱いを受けたのだから。
壁に背をつけ覗きを堪能する。なんて幸せな事かな。