断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
馬車に乗り込むと、ジャックさまは向かい側ではなく、わたくしの隣に座った。
肩が触れそうなほど距離が近い。そう思っていたら、がたんと馬車が揺れて、ジャックさまと肩が触れてしまう。
触れるたび鼓動が早くなって、苦しいくらい。ドキドキしながらお話していると、直ぐに、お店へ到着した。
ジャックさまが、先に馬車を降りると、手を差し出してくださる。そっと手を預けて、地上に足をつけた。ぐいっと腰を引き寄せられ、ジャックさまと密着する。
「さぁ行こうか」
「はい。ジャックさま」
ジャックさまが扉を開けて、店内に入ると、煌びやかな世界が広がっていて心が弾む。ここのブランドは、一日一組限定で中々予約が取れない。公爵家の我が家も、屋敷に一回だけ来てもらったことがある位だ。
折角だから、直接お店に行ってオーダーしようと、ジャックさまから誘ってくださった時は嬉しくて心が踊った。
「ジャック皇太子殿下、ヴァイオレット公爵令嬢、ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへお掛けください」
デザイナーであるマダム・セレスティーヌが、わざわざ出迎えてくれた。
そして、ガラス張りのカウンターの前にある椅子へ腰掛ける。
「本日はどのようなジュエリーをお探しでしょうか」
「婚姻記念にお揃いの物が欲しいんだ」
「まぁ、素敵でございますわね。リング、ネックレス、バングルなど、どのような物がよろしいかお決まりでいらっしゃいますか?」
どうしようかと、ジャックさまを見上げると、パチリと目があった。
ジャックさまは、大きく頷かれたので、私の好きなものに決めてもいいということだろう。
それだったら……。
「わたくしは、リングが良いかと思いますわ」
「うん。ヴィーの希望通りにしよう」
嬉しいわ。ジャックさまとお揃いのリングを持てるだなんて。
「かしこまりました。デザインや宝石の種類は、いかがなさいましょう」
「ジャックさまにいただいた、この指輪と重ね付けが出来るような、そんなデザインにしたいのです」
わたくしたちの想いが通じ合った日に下さった、ゴールドの台座に、紫水晶が誇らしげに乗ったリング。ジャックさまの瞳の色の紫水晶は、今も右手の薬指に輝いている。
「ヴィー、そこまで大切に想ってくれてありがとう」
「それでは、そちらのリングを見せていただいてもよろしいでしょうか」
「はい」
ジャックさまからいただいたリングを外し、マダム・セレスティーヌに渡す。
マダム・セレスティーヌは、手袋をはめて、念入りにリングのデザインを確認した。その後、デザイン画をものすごいスピードで書き上げていく。
「数パターン考えてみましたが、いかがですか?」
(どのデザインも素敵だけれど……、一番はこれかしら)
気に入ったお揃いのリングのデザイン画を手に取ろうとすると、ジャックさまと手が重なる。