断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
ガシャンと鍵をかけられる音が響き渡る。足音が離れていったのを確認して、うっすら瞼を開ける。
(ここは、牢屋……?)
鉄格子で囲われた部屋に閉じ込められたようだ。相変わらず手足は拘束されて動かない。
高いところにある窓の外を見ると、既に夜で景色は見えない。月明かりだけが、この牢屋をも照らしてくれる。
誘拐の実行犯である男二人が階段を登って私を運んでいたから、塔のような場所なのだろうか。
馬車に乗っていた時間を考えると、まだ皇都にいるのだと思うのだけれど。
流石に皇城の近衛騎士や、我が公爵家の人間が気がついて、捜索が始まっているだろう。
きっと助け出してくれるはず。そう考えるけど、恐ろしさが拭えない。
――もしここで犯されたら、ジャックさまと結婚出来ない? それどころか、殺されてしまったら……。
嫌な考えが頭をよぎり、首を横に振って、手が震えてくるのを必死に抑える。
すると、コツン、コツンと足音が、こちらに向かっている。
蝋の灯りがゆらゆらと揺らめいて、鉄格子の前に止まった。相手の顔が灯りに照らされると、私の心臓が駆け足で鼓動する。
「イーサン、殿下……」
私を見下すように覗き込んでいるのは、皇城の地下牢から抜け出して行方不明になっていた元婚約者、イーサンだった。
「はっ。いいざまだな。ヴィクトリア」
暗がりでも分かるほど、愉快そうに嗤っている。
「ど、どうして、このような事を……」
「まだしらばっくれる気か? 隣国の王女を殺し、愛しのリリアンを強姦させ、兄上をたぶらかした上に、この俺様を牢になど放り込んだ毒婦め!」
ガシャンと鉄格子を殴り、苛立ちを隠せないでいる。とても王族だとは思えない荒々しさに、溜息をつきそうになる。
「そのような事はいたしておりませんが……。それで私のことを、どうするおつもりなのですか?」
「俺の性奴隷にして穴という穴、全部犯しまくってやるよ。死にたくても死ねないような苦しみに堕として、その無表情を絶望の色に染めるんだな」
「……っ!」
なんて下品で、最低なの。この人と結婚する運命にならなくて良かった。
少しも隙を見せてはいけない。震える手を抑え、必死に睨みつける。
「明日の昼間に犯してやる。自分にされている事がよく見える太陽が出てる時間にな。精々震えて待っていろよ」
イーサンはそういうと、笑い声をあげながら、何処かへ去っていった。
震えが止まらない。明日の昼までに助けが来なければ、ジャックさまと結婚出来なくなるかもしれない……?
そんなの絶対にいやよ。何としても、貞操を守らないと。
だけど、もう手遅れかしら。誘拐された時点で、汚されたと思われても当然だもの。
「いや……っ。きっと、きっと大丈夫」
自分を落ち着かせるために、月明かりを見上げて、必死に深呼吸をする。
「ジャックさま……」
名前を呼ぶだけで、僅かに心が安らぐ。ジャックさまに逢いたい。
それでぎゅうっと、抱きしめてもらいたい。
「ジャックさま、助けて……」
私の小さな声は、暗闇の中へと消えていった。