断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
15.正体は……?
ジャックさまが用意してくれた馬車に乗って、数時間が経過した頃。
隣に座っているルナが、喉をゴロゴロと鳴らして上目遣いでわたくしを見つめてくる。
「ルナ、寂しかったのね。ごめんなさい、でもこれからはずっと一緒よ」
「にゃ〜ん」
甘えた声で返事をしてくれるルナはとても可愛い。私はルナが愛おしくて撫でようとすると、その手を正面にいるジャックさまに握られた。
「ヴィー、そいつは猫じゃないから撫でなくてもいいよ。ずっと一緒も無理だ」
「え? ジャックさま、どうしたんですか?」
どこからどう見ても、ルナは猫だ。ふわふわの毛並みに、まんまるなお目々。鳴き声だって甘えた猫そのものだ。
「こいつは、人間だ」
「――……っ」
……ジャックさま、疲れていらしているのかしら。
猫のルナの事を人間だなんて、普段のジャックさまらしくない。
私は何とも言えない顔で見つめると、ジャックさまが珍しく眉間にシワを寄せてルナに話しかけた。
「おい、お前。ヴィーに変な目で見られただろう。少しは喋ろ」
「全くもう、人使い荒いんだから……」
「え?」
ジャックさま以外の可愛らしい女の子の声が聞こえて、ビックリして目を丸くする。
どこから声が聞こえるのだろうときょろきょろしていると、ジャックさまは変わらずルナを見つめていた。
「ヴィクトリア、こっちよこっち!」
「うそ……。本当にルナなの……?」
「もっちろん! 今まで黙っていてごめんなさいね」
ルナの口の動きに合わせて声が聞こえる。わたくしは驚いて口が塞がらない。
やれやれといった表情で、ジャックさまが言葉を紡ぐ。
「ヴィー。実は此奴は隣国のエステル王女のようだ」
「え? ジャックさまの元婚約者のエステル王女殿下は……」
――亡くなられてしまったと、国葬されたはずでは。