断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
(まさか、王女さまの亡くなられた魂がルナに!?)
内心ドキドキして身体を後ろに引くと、ルナが人間らしい顔で焦り始めた。
「ちょっとヴィクトリア! 私は亡霊なんかじゃないからね!」
「そ、そうなのですか……?」
「王女なんて堅苦しい身分なんて耐えられないから死んだふりをしたのよ! それで猫に変身する魔法を自分にかけて逃げ出したのは良いんだけど、元に戻れなくなっちゃったの!」
「死んだふり……? それではなぜ家の庭園にいらしたのですか?」
「取り敢えず遠くに行きたいから幌馬車に忍び込んだの。そしたらヴィクトリアの家に辿り着いたわけ。空腹で本当に死んじゃいそうだったから、食べ物をくれて本当に助かったわ!」
ご機嫌そうに喋る彼女に、わたくしは戸惑うばかりだ。
まさかルナの正体がエステル王女だったなんて。不敬な事ばかりをしていた気がして段々と顔が青ざめてくる。
「ヴィーを驚かすなんて……。やっぱりこいつは消してしまおうか」
「ひぎゃあ! こ、怖い! ヴィクトリア助けて!」
ルナ、もといエステル王女は震えながら、わたくしに助けを求めた。
それなのにジャックさまの黒い笑みが素敵で、こんな状況下でも見惚れてしまう。
「ジャックさま、消してはいけませんわ」
「そうかな? でも生きていると知られればヴィーとの婚姻も危うくなる……」
「そ、それは困ります! 極秘で匿いましょう! エステル王女殿下、今後の人生はどのように過ごされたいんですの?」
ジャックさまと一緒になれない未来なんて耐えられない。
猫のお姿のエステル王女は「うにゃ〜ん」と悩み声を出しながら、ピコンと尻尾が揺れる。どうやら考えが思いついたようだ。
「私はね、静かな田舎で何にも仕事せず、ぐーたらスローライフを送りたいわ! ジャック王太子殿下、貴方のヴィクトリアを救う手伝いをしたのだから、報酬として用意してください!」
「ジャックさま、わたくしからも支援いたしますから、許していただけませんか?」
わたくしは、ルナだったエステル王女に死んでほしくはないので懸命にジャックさまの美しい瞳を見つめた。
するとジャックさまは苦虫を噛み潰したような顔をして、渋々と口を開けた。
「…………ヴィーが、そう言うなら…………」
「ジャックさま! ご理解いただきありがとうございます!」
前に座るジャックさまの手をとってお礼を言う。その横では、エステル王女が「やったああ! 死亡フラグ回避成功だわあ!」と叫んでいたが、その意味はふんわりしか理解出来なかった。
でもやることは分かっている。だって、わたくしは絶対にジャックさまの妃になるのだから。
「それではジャックさま。帰城するまでの間、作戦会議をいたしましょうか」
わたくしは、ジャックさまと頷きあい、考えを巡らせた。