断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
猫のまましょんぼりとした表情を浮かべるのだから、わたくしは反射的に彼女の頭を撫でてしまった。するとゴロゴロと喉を鳴らしながらも、エステル王女は言葉を紡ぐ。
「私には前世があるの」
「前世?」
「信じられないと思うけど、こことは違う世界で、ヴィクトリアとジャック王太子殿下の恋愛小説を読んでいたの。だから心配で皇城までついて行ったのだけど……。――誘拐を回避出来なくてごめんなさい」
わたくしとジャックさまの恋愛小説……?
そんなまさかと思いつつも、エステル王女が誘拐場所を知っていたようで今回助けられたのは事実だ。
「謝らないでください。ルナ……、エステル王女にはきちんと助けていただきましたから」
「ありがとう、そう言ってもらえると救われる……。ああ、そうそう! 私のことはルナでいいわ。ヴィクトリアがつけてくれた大切な名前だもん。これからずっとこの名前を使う。それに私は平民になるのだからそんなに畏まらないで」
「わかったわ」
横になるわたくしに寄り添うようにして、擦り寄ってくるルナに癒される。中身が人間であっても、猫は可愛い。
「それでね、ジャック皇太子殿下には気をつけて。彼はヤンデレだし、腹黒くてヴィクトリア以外に関心ないほどだから」
「やんでれ?」
「ええ。今回の誘拐をきっかけに、ヴィクトリアが危なくないようにと監禁されるわ」
「か、監禁?」
そんな物騒なと思いつつも、ジャックさまならやりかねない。そんな予感がわたくしの頭をよぎった。だってわたくしの前では蕩ける瞳も、本来は底の見えない色をしていると知っている。
「ヴィクトリアが監禁されてもいいなら構わないけど、執着がすごいから気をつけて。明日事情聴取をした後、皇城から帰れないと思うの」
「うそ……」