断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
17.ヴィクトリアの心
窓からの陽射しが暖かい。小鳥の囀りで目が覚めて、ぼんやりと瞬きをする。
いつもの癖でルナのぬくもりを探すと、すべすべとした何かに触れて一気に目が覚める。
がばっと起き上がると、横にはもふもふの猫ではなく、華奢な人間の女性が毛布に包まっていた。
「る、ルナなの?」
美しい黒髪がルナの毛色に似ていて、わたくしは小声で問いかける。すると、むにゃむにゃと言葉にならない声を出した。
「ルナ?」
もう一度肩を揺りながら声をかけると、ぴくんと身体が反応して瞼が開き、金色の瞳が顕になった。
「ん? ヴィクトリア?」
「やっぱりルナなのね。びっくりしたわ、急に人間の姿に戻ったんだもの」
「……あ、本当だ。夢じゃなかった……」
不思議そうに手を見て目を丸くしているその表情は、猫の姿の時と全く同じで、わたくしはくすくすと笑ってしまった。
「どうして戻ったか分からないけど、好都合だわ。わたくしは今日から皇城で暮らすことになるかもしれないのよね?」
「え、あ。うん」
「それなら帰り道で話したように、我が公爵領でのんびり生活するといいわ。手入れはしているけど使っていない小さな屋敷があるのよ。そこなら程よく田舎だしのんびり生活できると思うの。この後馬車と付き添いの手配をするわね」
「本当にいいの?」
「もちろん。だって可愛い黒猫ちゃんの一生を面倒みるって決めていたもの」
もう猫ではないのは知っているし、一緒に過ごした期間は短いけど。わたくしの心を癒してくれた友人としてきちんと今後の支援をしたい。
「ヴィクトリア、ありがとう……!」
金色の瞳をうるうると潤ませているルナを微笑ましく思い頷く。毛布から覗かれるルナの綺麗な素肌に見惚れつつ、わたくしは言葉を紡いだ。
「まずはお洋服を着ないとね」
「ひぎゃあ!」
裸でいるのを恥じらって毛布に潜り込むルナ。それがすごく可愛くてくすくすと笑いが止まらなかった。